利己的な遺伝子

利己的な遺伝子」(リチャード・ドーキンス ISBN:4314005564)
とりあえずコメントする部分を抜き出した。今からコメントつける。

この本を読む前から「物質の複製」というイメージの進化観を持っていました。うまく表現できませんが、こんな感じでしょうか。
「むかしむかし、あるところで雷か何かの影響で、たまたまアミノ酸に似たような構造の分子Aができました。分子Aは近くにあったイオンか何かと反応して、分子Aと同じ構造の分子A'ができました。これを初期条件とし、地球環境を境界条件として、あとは化学反応を繰り返してたら人間ができました。」
今となってはありふれた進化観でしょうから、「利己的な遺伝子」を読んでも普通に同意するだけで、あまり「驚き」はありませんでした。

ただ「驚き」はないものの、本書を読み終えたときに、何か妙な感触というか、機械的運命感(?)のような虚無感もありました。ある時点での世界の状態が決まったら、あとは物理法則に従うだけなので自由意志などない、ってやつ。まぁ、私は世界の状態なんて決定できないと思ってるし、量子レベルだと確率がきいてくるから、そこに「自由意志」が生まれると思ってるけど。というわけで虚無感も5分くらいで消えてしまいました。

でも面白いのは間違いない。

「物質」の進化

上で書いた進化観は「あるとき偶然に、とびきりきわだった分子が生じた。(中略)自らの複製を作れるという驚くべき特性をそなえていた。」(P35)のあたりと大体いっしょですね。こういう進化観を持っていたにもかかわらず、「人間のG構成単位はあらゆる点で巻貝のG構成単位と等しい。」(P44)(GとはAGCTのGのこと)という文には一瞬ハッとなってしまいました。どうやら、生物は別のものという感覚があったようです。確かにその感覚は消えません。頭ではわかっててもね…

性差?

「雌が雄の欺瞞を見抜く上で役だつ一つの手は、雄の最初の求愛の際には特別気むずかしくふるまっておいて、その後繁殖期を重ねる度に、同じ雄の求愛に対しては次第にすみやかに応じるようにしてゆくことだ。」(P247)
「雄の性細胞すなわち「配偶子」は、雌の配偶子に比べてはるかに小形で、しかも数が多いというのが特徴だ。(中略)他のすべての性差は、この一つの基本的差異から派生したと解釈できるのである。」(P226)

進化論に基づいて結婚制度や雌雄差を説明しているのは面白いと思った。もちろん人間に固有のものではないことは明らかなのですが、進化論で十分説明できるものなんだと感心しました。もっとも、100%信じるわけにはいきませんけど。

ミーム

最近、ミーム論に少し興味があった。この本で見かけたのは偶然。この本を読むまでは、ミームとは文化や知識が伝わる現象をDNAのアナロジーとして言っているものだと思っていた。

「科学者がよい考えを聞いたりあるいは読んだりすると、彼は同僚や学生にそれを伝えるだろう。(中略)脳から脳へと広がって自己複製するといえるわけである。」(P307)
「遺伝子を単位とする古い進化は、脳を作り出すことによって、最初のミームの発生しうる「スープ」を提供した。」(P309)

だけど、実際のミーム論はもう少し地に足がついていて、遺伝子を「自己複製子」というレベルまで抽象化したときに、文化の伝播なども同じレベルで扱える、といったもののようでした。たしかにおもしろい。だけど、ミーム論は何かもたらしてくれるのだろうか。何か「予言」してくれるのだろうか。遺伝子についての研究は、遺伝子操作などの成果をもたらしている。ミームについて研究すると、文化の意図的な改変ができたりするのだろうか。情報伝達の効率化ができたりするのだろうか。

延長された表現型効果

「石の固さは、トビケラの遺伝子の延長された表現型効果なのである。」(P384)
「一つの遺伝子の表現型効果が、(中略)「ほかの」生物体へも延長しうるものである」(P387)

このへん面白そうなんだけど、なんか納得できない。行動のすべてを無理やり遺伝子で説明をつけてるような。

その他

「自種のメンバーが他種のメンバーに比べて、倫理上特別な配慮をうけてしかるべきだとする感覚は、古く根強い。」(P28)

私もこの感覚は強く持っている。ただ倫理上というわけではなく、それ以外の線引きができないから。知性を持った動物という分類はあまりにも恣意的だし、動物と植物という分け方では植物も生きているだろと思ってしまう(私が日本人だから?)。

「たぶん、意識が生じるのは、脳による世界のシミュレーションが完全になって、それ自体のモデルを含めねばならぬほどになったときであろう。」(P98)

ここはなかなか面白い考え方じゃないだろうか。これに従うなら、コンピュータも意識を持てるのだろう。私の意識と同じかは確認できないけど。もちろん、私の意識があなたの意識と同じかどうかも確認できない。

レミングたちも、(中略)もっと密度の低い生活場所を探し求めているのだ。」(P187)

ここは違うんじゃないか。自殺するプログラムのレミングが支配的になっただけだろ。遺伝子にそう思い込まされてるって意味か?…などと思ってたら、どうもレミングの集団の中のまぬけな(?)やつだけが押し出されて落ちるだけ、って説明されているようだ。それなら、川や海がない場所ではちゃんと移動先で落ち着くことを確認すればいいだけだと思うのだが、まだよくわかっていないような。難しいのかな。

「われわれの惑星に勢力を張ったのが、たまたま、遺伝子、つまりDNA分子だったというわけだ。」(P306)

自己複製するような分子構造はシミュレーションで出るのでは?よく言われるのは炭素の替わりに珪素を使ったDNA類似物だけど、その他にもありそう。

「われわれの意識的な先見能力には、盲目の自己複製子たちの引きおこす最悪の利己的暴挙から、われわれを救い出す能力があるはずだということである。」(P320)

「この地上で、唯一われわれだけが、利己的な自己複製子たちの専制支配に反逆できるのである。」(P321)

遺伝子に先見能力がなく、脳に先見能力があるというのは納得だが、なぜ反逆なのか?脳も遺伝子の産物であり、専制支配化にあるのでは?支配から逃れるというのは自己複製しない、死ぬことなのでは?