提訴は計画的に 〜環境ホルモン提訴事件

京都大学教授の松井氏が産総研の中西氏を提訴した話。詳しい内容は環境ホルモン濫訴事件*1が参考になる。

私が理解している範囲では、この提訴を極力単純化すると次のようになる。

  1. 中西氏が松井氏の学会でのプレゼンテーションを批判
  2. 松井氏が中西氏を提訴

これだけだと何なので、もう少し詳しく。

  1. 松井氏は環境ホルモンの研究を実施してきた
  2. 環境省の研究*2で、いわゆる環境ホルモンと呼ばれているものの害はほとんどないことがわかった*3。少なくとも人間に対しては。
  3. 環境ホルモンに関するシンポジウムで、松井氏が研究発表した(中西氏が座長)。
  4. その壱
    1. 松井氏:シンポジウムにて「今回学んだ環境ホルモンの研究はどうやって生かせるのか。私は次のチャレンジはナノ粒子だと思っています。」
    2. 中西氏:自分のWEBページにて松井氏の発言についてコメント「環境ホルモンは終わった、今度はナノ粒子の有害性を問題にしようという意味である。」
    3. 松井氏提訴(そんなこと言ってない)
  5. その弐
    1. 松井氏:発表資料に新聞記事を使う
    2. 中西氏:自分のWEBページにてコメント「学者が、他の人に伝える時、新聞の記事そのままではおかしい。新聞にこう書いてあ るが、自分はこう思うとか、新聞の通りだと思うとか、そういう情報発信こそすべき ではないか。情報の第一報は大きな影響を与える、専門家や学者は、その際、新聞や TVの記事ではなく、自分で読んで伝えてほしい。でなければ、専門家でない。」
    3. 松井氏提訴(原論文くらい読んでるよ、いいかげんなこと言うな)

その壱に関しては、中西氏のコメントは松井氏の発言を正しく理解していると考えられる。国語のテストならマルがもらえる。
その弐に関しては、中西氏は「自分で読んで伝えてほしい」と書いており、松井氏が原論文を読んでいないと言っているようにも解釈可能ではある。松井氏の主張にも理がある。だが、中西氏のコメントの主眼は、新聞記事を使ったとしても自分の意見を加えろ、という点である。松井氏の主張は重箱の隅をつつくようなものだと思う。

以上より、松井氏は中西氏のコメントを曲解しているとしか思えないのだが、提訴にいたった理由*4はもっとぶっ飛んでいる。というか何が言いたいのかさっぱりわからない。

学問上の批判に対しては学問的に反論し、WEB上で批判されたらWEB上で反論すればよいと思う。しかし松井氏は提訴した。提訴も法に則った方法であり、悪いとは言わない。だが上で書いたように提訴の理由がない(ように思われる)。したがって松井氏の提訴には裏の理由があり、それは環境ホルモン研究を批判する勢力を社会的に抹殺するためである(と私は思っている)。やっぱり学問的研究も予算の塊なので、利権争いが激しいのですよ。よく知らんけど。

でも進行中の裁判の流れを見ていると、こんなに単純なことではないような気がしてきた。というのも、松井氏側があまりにもダメダメだからだ。松井氏側が勝てそうなところが全く見えない。ここまで中西氏側のワンサイドゲームになると、逆に疑わしくなってくる。提訴によって社会的なダメージを与えようと思うのなら、提訴そのものとプレスリリースによって既にその目的は達成できている。勝つ見込みがないのなら、もっともらしい理由をつけて早めに取り下げておけばよかったのではないか。しかし松井氏側はそうしなかった。もしかしたら、もっと裏の提訴理由があるんじゃなかろうか。ただ私の頭ではその理由まではたどり着いておりません。残念ながら。

ひとつ思いついたのは、判決文の中の一部分だけを取り上げて宣伝する作戦。裁判だと全部が全部の点を争うわけではないので、被告はポイントを絞って争うはず。単に裁判を長引かせるだけのどうでもいいポイントについては争わないので原告の主張が認められる。裁判には負けてもこのどうでもいいポイントをことさらに強調して宣伝に使うとか。名誉毀損は認められず裁判には負けるが、環境ホルモン問題が終わったとは言えない、といった判決を引き出すつもりとか。

ごちゃごちゃ書いた割に非常にわかりにくいですが、これを書いた理由は少しでも多くの人にこの提訴について知ってもらうため。学問上の話から裁判となったケースとして興味深いと感じたので。

*1:http://www.i-foe.org/ 公正であるようには思われるが、中西氏側のページであることは認識しておくべきだろう

*2:http://www.env.go.jp/chemi/end/extend2005/index.html

*3:って書くとすべての化学物質【謎】について調べろ、って言う人が出てくるらしいが

*4:http://www.i-foe.org/suitor/press_release.html